633 共振回路の要素(r'と半値幅)
ここでは,LCR共振回路にとって重要な概念を紹介する.
※ここで足りない知識は専門書・webなどで調べること
■コイルの交流抵抗$ r'
実験対象となるコイルとその電気量であるインダクタンス$ Lについて考える.
インダクタンス(コイル)は銅線を筒の周りに多数回巻いて作る.
このコイルに電L流を流すとき,コイルに流れる電流$ iと,コイル両端に発生する電圧降下$ vの関係は,
$ v=L\frac{di}{dt}
で表される.
ここで$ Lは定数であり,コイルの電気量であるインダクタンスを表している.
※inductance:誘導係数,誘導子
コイルを作っている銅線が長くなれば,その抵抗値$ r'は無視できなくなる.
※直流抵抗値ではないことに留意
電圧は電流と抵抗に比例するため,エネルギーの損失$ r'i^2が生じる.
※通常,熱になって失われる
このときコイルに流れる電流$ iとコイル両端に発生する電圧降下$ vの関係は$ v=r'i+L\frac{di}{dt}である.
この場合,$ Lとr'は直列接続と想定している(図633.1 左側)が,$ L_pと並列に抵抗$ R'が付いていると考えることもできる(図633.1右側)
※このように置き換え可能な性質を双対性(duality)という.電気回路ではこの他にも,
電圧⇔電流,抵抗⇔コンダク測タンス,短絡⇔開放などが双対性を持つ
https://gyazo.com/6140f06c4e49d2d57dd0b0f7b73c5b39
図633.1 コイル等価回路
さて,このコイルの抵抗値$ r'はどうすれば測定できるだろう?
まず思いつくのは,テスターでコイルの抵抗値を測ること.
テスターは乾電池の直流電圧を定対象物にかけて,そこに流れる電流の大きさから対象物の直流抵抗値を計算する.
しかし,コイルの持つ抵抗は直流から高い交流周波数までずっと一定というわけではない.
※直流交流関わりなく電流iが流れたときのエネルギー損失:$ R\cdot i^2
交流抵抗値は一般に,次のような性質をもつ.
a. 周波数により変動する
b. 直流抵抗よりも値が大きい
c. 高周波になるほど顕著になる(数倍から数十倍)
いずれにせよ,交流回路におけるコイルの内部抵抗値$ r'を直接測定することは困難である.
★本実験では,共振周波数$ f_0における$ r'を,共振理論を用いて共振時の振幅特性の測定値から算出する.
■比帯域幅と半値全幅
紹介の順が前後するが,「634 直列共振回路の周波数特性理論」で,Qの定義(3)で「$ Q_0は共振カーブの狭さ/鋭さ」だとしている.これは周波数で言うと,「比帯域幅の狭さ」と言い換えることができる.以下に少し説明しよう. まず,帯域幅(たいいきはば:bandwidth)とは一般に,周波数のある範囲のことである.
本テーマで扱うアナログ信号について帯域幅$ \Delta fを定義すれば,
$ \Delta f= 信号をフーリエ変換したときに非ゼロ値となる周波数範囲
→ ただしこの範囲は非常に広くなることが多いため,実際には信号電力の最大値の半分となる範囲を使うことが多い.
これを,半値幅,または半値全幅という.
※はんちぜんはば:full width at half maximum, 略称FWHM
※範囲での値が左右対称な分布の場合は半値幅のさらに半分を扱うこともある.この場合は半値半幅:half width at half maximum, HWHMと呼ぶ
※帯域幅の概念や使われ方は,情報理論,電波通信,信号処理,分光法などの分野で少しずつ異なっているので注意が必要
次に信号半値について考える.半値は信号電力の半分という意味である.
電圧/電流で考えると,最大値の$ 1/\sqrt{2} = \sqrt{2}/2 = 0.7071...倍となる.
これをデシベル表記すると以下になる.
半値幅$ = log_{10}(\frac{1}{\sqrt{2}}) = -3.01029... \approx -3 dB
つまり半値幅とは次のように定義できる.
「信号電圧/電流から$ 1/\sqrt{2}または3dB下がった電位に到達する2点の周波数の差(帯域幅)」
「$ Q_0は共振カーブの狭さ/鋭さ」と言う定義に立ち返ると「帯域幅が中心周波数$ f_0の値に対してどれだけの割合か」という比率にすれば,周波数を考えずに比較可能になる.
これを比帯域幅(fractionalbandwidth)という.つまり,
比帯域幅$ = \frac{\Delta f_2 - \Delta f_1}{f_0},~~~(逆数は, \frac{f_o}{\Delta f_2 - \Delta f_1} = Q_0)
例: 中心周波数が50kHzで帯域幅が2.0kHzなら,比帯域幅は2.0/50=4%となる.
この逆数は$ 50/2=25で,これが$ Q_0の値である.
以上.
2024/4/8